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京都大学医学部附属病院は、病院の情報政策を担う「医療情報企画部」(※1)を全国に先駆けて院内組織として設置し、国内の医療DX(医療現場でデジタル技術を活用して医療の効率や質を向上させること)を牽引してきました。その京大病院に最近導入された電源管理システムには、ATENジャパンの4ポート電源リブーター「PE4104AJ」も一役買っています。

京大病院でのシステム導入の実際の取り組みや、導入に際して持つべき考え方など、医療情報企画部長の黒田知宏教授、看護支援システム担当の疋田智子看護師長のおふたりに、幅広くお話をお伺いしました。

※1)設立時は「中央情報処理部」

京都大学医学部附属病院 疋田智子看護師長(左)と黒田知宏教授

【京都大学医学部附属病院 疋田智子看護師長(左)と黒田知宏教授】

――まずは京大病院でのおふたりのお仕事内容について教えてください。

黒田:
私は今、肩書を4つ持っていまして、まずメインで取り組んでいるのが、附属病院の医療情報企画部長の仕事です。病院の情報施策などを決めていく役割で、一般にCIO(Chief Information Officer、最高情報責任者)と呼ばれる仕事ですね。

厚生労働省のルールで、病院は医療情報システム安全管理責任者を経営層に置かなければならないと決められているため、病院長補佐もしています。病院長補佐として病院のデータを扱うため個別の診療に伴う収入・支出などもすべて把握できることから、経営分析の責任者も務めています。

このほか、教員としての仕事ですね。医学研究科と情報学研究科の教授を兼任していて、医療ITを教えています。また、医療DX教育研究センターのセンター長でもあります。
疋田:
私は2008年から現職で、看護支援システムを担当しています。電子カルテなどのシステム導入に関連する業務や、看護師の記録の質を上げるための看護記録監査、DXによる看護師業務の効率化の支援をしており、黒田先生と一緒にお仕事させていただいています。

2008年の着任当初はシステムの知識が全くなく、先生方の言葉もほとんど分からなかったので、必要に迫られて応用情報学の博士号を取りました。その過程で、看護師業務のうち機械化できるものは機械化して、効率化を進めていかなければならないと感じ、今に至っています。

電子カルテ導入、スマホアプリで待ち時間短縮、床頭台改良

――京都大学病院では以前から医療DXを進められていますが、ここ最近での取り組みを教えてください。

黒田:
まず、2022年に電子カルテシステムを更新しました。京大の研究者は電子カルテのデータを使ってAIを作って研究するということが当たり前になっているので、それを安全かつ自由にできるようにするためにはどうすればいいか検討していたところ、ちょうどGoogleさんと共同研究契約を結ぶ機会があったんです。病院として決まった領域の中でデータを使ってもらえれば個人情報の管理が楽であることに加え、研究者にとってもGoogleさんのあらゆるAIのツールを使える環境ができるというメリットがあるため、電子カルテをGoogle Cloud上に展開しました。

たまたまタイミングの問題だったのですが、同時期に別の2つのシステムも変更する必要が生じてしまったため、まとめて進めていきました。

ひとつは、外来を受診する患者さんの案内システムです。これまでは、外来の患者さんに呼出受信機を渡して診療科に呼んでいましたが、患者さんは受付で並び、さらに支払いでも並ばなければなりませんでした。

そこで、呼出受信機が製造中止になったのを機に、患者さんの待ち時間を減らせるよう、スマホアプリを作りました。アプリで来院前に受付を済ませて、病院の建物に入ったら自動的に到着を通知、診療科への呼び出しもアプリが行って、診察が終わったら支払いはクレジットカードの後払い請求となります。処方箋が出た場合は、薬局を選んでファクス送信。アプリをクリックするだけで、病院の窓口へは一度も行かずに診療が終わる仕組みです。

もうひとつは、病室のベッドサイドに置かれている床頭台と呼ばれる患者さんのサービス台です。これにテレビがついているのですが、以前は昔ながらのテレビカードを使用していました。これも契約が切れたので、システムを新しくする必要が出てきました。

床頭台。上部にあるディスプレイがスマートベッドシステム™。

【床頭台。上部にあるディスプレイがスマートベッドシステム™。ATENの電源リブーターPE4104AJはこの端末の背面収納部に格納されている。】

患者さん向けのサービスとして床頭台に設置されているのは、テレビ、冷蔵庫、サービスコンセントで、小児病棟にはブルーレイプレイヤーもあります。これらの電気を使うサービスをまとめて日額500円でご提供しているのですが、患者さんによってサービスを使わない日があったり、ベッドを移動したりすることもあるので、その日その日で制御しなければなりません。そのたびに病室へ行ってオン・オフするわけにはいきませんから、冷蔵庫、サービスコンセント、ブルーレイプレイヤーの3つをATENジャパンさんのPE4104AJで電源管理し、中央で電源の制御をしています。テレビについてはスクランブルをかけるので別管理になります。

患者さんがベッドを移動する場合、床頭台を一緒に持っていくこともあれば、患者さんだけ移動して、移動先の床頭台を使うこともあります。そのため、一台一台の床頭台が今どこにあるのか、その床頭台がどの患者さんに紐づいているのかという情報が必要になります。そこで、ベッドサイドのポートにつないだ床頭台に対してその場所のIPアドレスを与えるアルゴリズムを用意して、ベッドの患者さんの課金状況を照会し、電源を入れるという方法をとっています。

ベッドサイドのポート

【ベッドサイドのポート】

この電源管理のシステムとまとめて、スマートベッドシステム™ も床頭台に設置しました。これは、専用のタグをつけている看護師さんが近づくと自動的にログインでき、体温計などの測定機器をNFCリーダーにかざして送信するだけで、患者さんと紐づけたバイタルデータ(脈拍や血圧、体温など)を電子カルテに送ることができるシステムです。

構成図

【病院内 床頭台サービス(スマートベッドシステム™ 含む)に関連したシステム構成図(ATENのPE4104AJは図左の「スマートコンセント」として利用されている)】

疋田:
スマートベッドシステム™ には患者さんごとに、転倒の危険性や血圧測定・採血をしてはいけない上肢側の情報等がピクトグラムで表示されます。アレルギー情報なども得ることができるので、いちいちカルテで確認する手間が省けます。もっとも、これらは個人情報に当たるので、アクセス権限のある看護師が来て初めて参照できるようになっています。
黒田:
今回の床頭台に設置したバイタルデータターミナル(VDT)(※2)自体は2010年頃から研究していて、2016年にリアルなものとしてベッドサイドに導入しました。そのときの設置場所は壁際だったので届きにくいという声があったため、今回、床頭台にまとめて使い勝手を良くしました。

※2)バイタルデータターミナル(VDT)~看護師がベッドサイドに設置したカードリーダに体温計や血糖値計をかざすだけで、計測した体温や血糖値などのバイタルデータが記録できる仕組み

「大将が前線に出たら負け」

――電子カルテの導入に際して苦労されたことなどはありましたか。

黒田:
その点に関しては、私はスタッフに恵まれていました。みんなが頑張ってくれるから、私は「そうかあ」って答えているだけですけど(笑)。
疋田:
黒田先生が方向性を示してくださるので。
黒田:
電子カルテ導入のときは、疋田さんを含め優秀なスタッフが5、6人でグループを作り、それぞれがその部門のシステムを個別に担当し、週2くらいで進捗状況を聞かせてもらって、本当に火を噴きそうになったときには私が出ていくというスタンスでした。

これは私がいつも使う言葉ですが、「大将が前線に出たときは負け」なんですよ。だから、そのときのPM(プロジェクトマネージャー)を務めた准教授にも、「可能な限り表に出るな、疋田さんたち師長や助教、係長のスタッフが企業の担当者のチームに前線に出てもらいなさい」と言っています。

大学病院でシステム導入に失敗しているところは、多くの場合、部長先生が自分のやりたいものを導入するのです。それでトラブルが起こったら、部長先生が「直すわー」って自分で取りかかるのです。そうすると、全体を見なきゃいけないのに、ほかがおろそかになってしまうでしょう? だから、大将は前線に出ない、というのは特に自分に律しています。

黒田教授

【黒田教授】

新しい技術を現場に浸透させるには時間が必要

黒田:
VDTでは、「業務が楽になるかもしれないから使ってみてください」というところから始めて、最終的には「業務がばらつくと危険なので、使ってください」と導入しました。新しい技術を現場に導入するときは、新しい技術そのものも枯れていませんけれど、ユーザーの使い方も枯れていないんですよ。これが必要なんだという世論を形成するための一定の期間が必要なんです。
疋田:
VDTを2016年に導入して1年たったときに、どのくらい使われているのかデータを取って調べたんです。すると最初の1、2か月は4~5割使ってくれていたけど、1年目になったら2割を切りそうになっていました。また、アンケートでは業務が軽減されたと感じる人は3割程度でした。

いろいろ原因を探って改修し、副看護師長さんたちを中心にメリットをアナウンスしてもらって、毎月各病棟のVDT使用率をフィードバックするようにしました。それで5割弱ぐらいまで上がり、3年後のアンケートでは、業務が軽減されたと感じる人が7割になりました。
黒田:
ただどうしても必要としない人もいます。道具なので100パーセント使われるというのはありえませんからね。インフラを導入するときのコスト効率を考えるのは難しいんですよ。今回の導入でも、設置場所を絞るという議論があったのですが、あえてやらなかったんです。それをやると病棟変更ができなくなってしまうんですね。ある程度はインフラに沿って業務を行いますが、インフラが業務を規定しないようにする必要があります。

疋田看護師長

【疋田看護師長】

「安心・安全」の意味を間違えて要求すれば思考は停止する

――黒田先生は「安心・安全」という言葉がお嫌いだそうですが、病院でシステムを担当されている立場を考えると、とてもインパクトがあります。お嫌いだという理由を教えてください。

黒田:
「安心・安全」という言葉を作ったのは、慶応義塾大学病院の病院長をされていた北島政樹先生だと聞いています。北島先生は「安心と安全は別のものでひとつじゃない」とずっとおっしゃっていました。安全だからといって安心できないし、安心したからといって安全ではない。そのことを分かったうえで、診療現場は安心と安全を両方達成するように頑張らないといけない。私は、その言葉は正しいと思います。

ところが、今の「安心・安全」という言葉の使われ方は、「安心で安全でなければならない」という要求になっています。それを要求した時点で思考停止なんですよ。安心しているのがいちばん不安全で、情報システムを作る側からするとそれがいちばん怖い。使っている機械にどんなエラーが起こる可能性があるのか知らないまま安心して使っていたら、本当に医療事故が起きてしまいます。そういう意味で、「安心・安全」という言葉は大嫌いなんですよ。安心と安全は区別しないといけないんです。

編集後記

お話をお伺いした後に、早期臨床試験専用病棟のKi-CONNECT(キーコネクト)へ案内していただき、床頭台やベッドを見学。床頭台は患者さんが利用するためPE4104AJは台の内部に格納されていましたが、側面の隙間からその存在を確認することができました。

Ki-CONNECT

【京都大学医学部附属病院に設置された早期臨床試験専用病棟 次世代医療・iPS細胞治療研究センター(Ki-CONNECT)】

  • 床頭台のスマートベッドシステム
    【床頭台のスマートベッドシステム™(タブレット型のディスプレイとNFCリーダー)・左】
  • 床頭台内にあるPE4104AJと関連機器
    【床頭台内にあるPE4104AJと関連機器・右】

構成図